ブータン王国ツツジ・シャクナゲ視察報告

視 察 団 団 長 藤 原 勝 壽


 今回のブータン王国のツツジ・シャクナゲ視察は、当協会にとって第3回目の海外視察である。ブータンのツツジ・シャクナゲについては、Rebecca Pradhan女史の「Wild Rhododendrons of Bhutan」(1999)に46種類が紹介されており、今回の視察ではその内26種類が観察された。ブータン王国に関する書籍は少ないが、中尾佐助・西岡京治両氏の共著「ブータンの花」(1984・朝日新聞社)には、第2章に「シャクナゲの宝庫」として紹介されている。ブータンのお国柄の紹介は、志田副会長の別稿(会報第35巻第1号P64(2006))に譲る。

 自生地視察には、ブータン王国農務省の植物専門家イシ・ドルジ氏が我々視察団の全行程に同行をいただき、ピンポイントでツツジ・シャクナゲ自生地のご案内とその解説をいただいた。イシ氏は、米国ミズーリ大学大学院で植物学を学び修士号を取得しているとともに、ブータン王立植物園の開発プロジェクト・リーダーとしてご活躍している。
    日常業務の外に国際会議参加や専門誌への論文執筆でご多忙の中、我々の視察にご参加いただいた。

                       今回の視察概要は次のとおりである。

     1.目的:ブータン王国のチェレラ峠、ドチュラ峠、ウォンディフォダン及びガンテ・ゴンパ等を訪ね、現地自生
       のツツジ・シャクナゲを見学した。              【写真集掲載してあります。

     2.期間:2006年4月30日(日)〜5月8日(月)の9日間  【詳細日程表別紙へ

     3.主催:日本ツツジ・シャクナゲ協会(JRS)

     4.視察日程:別表日程表のとおり

     5.参加者:11名
        北から、土居保幸、土居美恵子(北海道)、守健一郎(宮城)、羽鳥勝(群馬)、平岡煕、平岡真知子
        (神奈川)、野村洋一(大阪)、井上修爾(大阪)、東浦俊彦(兵庫)、藤原勝壽(香川)、永井吉彦(愛媛)
        の各氏である。

     6.旅行社:シデ・ブータン・ツアー・アンド・トレック

 今回はゴールデンウイークの混雑期の視察となり国際便の座席がとりにくく、関西国際空港と成田国際空港に分れて出発し、バンコクでの集合となった。外国での集合のため少々心配されたが、バンコクの空港ホテル・アマリ(AMAR Hotel)で無事集合できた。外国人のブータン王国の入口は、空路ではバンコクとインドのガヤ・カルカッタ・デリーのみで、ブータン王立航空ドゥック・エアーが就航している。我々が搭乗した機材は2年ほど前に購入した新鋭機エアバスA319であった。バンコクからインドのガヤを経由して、ブータン唯一の空港パロに到着したのは5月1日の午前9時半であった。憧れのパロ空港は、標高2300mの僅かな谷間のスペースに滑走路をつくっていた。抜けるような青い空の遠くに雪山が見えていた。空港職員は全て民族衣装を着ていて、親切に入国審査の案内をしていただいた。

 空港を出るとシデ・ブータン・ツアー・アンド・トレックのコーディネーター・青木女史とガイドのツェリン・ノルブ氏が迎えてくれた。青木女史は旅行社の社長夫人でブータン旅行では名の知れた方であり、また、ツェリンは親日家で、奥様は日本人で小生の知人の世話で結婚している。安全運転のサンゲイは、多い荷物をテキパキとトヨタコースターの屋根の上に積み込んだ。
     詳細な報告は、参加団員の報告に委ねることとして、以下要点のみ報告する。

第一日目 5月1日(月)

  観察地:パロ近郊のタクサン・ゾン参道周辺をトレッキング

観察できたツツジ・シャクナゲ:アウボレアム、トリフロールム等

 空港からマイクロバスに乗り、谷沿いの道をパロの町の中心地に向かった。バスの中で青木女史がシャクナゲのことを「エト・メト(Etho Metho)」ということや、風に経を読ませるという「ダルチン」の小旗を紹介してくれた。見る景色のすべてが新鮮であった。パロの中心街で先述の植物専門家のイシ・ドルジ氏と合流した。ブータンでは山と谷ばかりで、平地はほとんどない。町の中心地から少し離れたところに宿泊ホテルのジョルヤンズ(Hotel JORYANG’Z)はあった。紅茶とクッキーで小休止の後、タクサン寺に向かった。

 タクサン寺は崖の中腹に遠望され、その参道沿いにアウボレアムが群生していた。大きなもので樹高5〜10mぐらい、自然交配のためか真紅からピンクまで花色の変化が大きい。

 ホテルでの夕食時に、ブータン国営テレビの制作ディレクター兼カメラマンで国教ドゥック派大僧正とは血縁のレンチェン・ノルブ氏が合流した。レンチェン氏は数年前、三重テレビに報道制作の研修で滞在していたことがあり、志田副会長とは旧知の仲である。我々の視察の全行程を共にして、その状況をテレビカメラに納めていただいた。

 夕食時間に、イシ氏がパワーポイントで「ブータンのシャクナゲ」の講演をしてくれた。これから見学するシャクナゲの予習で大変参考になった。

第二日目 5月2日(火)

  観察地:チェレラ峠3988mから尾根筋の山道を2時間程度トレッキング

 観察できたツツジ・シャクナゲ:アウボレアム、トリフローラム、マッデニー、シナバリナム、カンピロカルプム、バルバータム、ワリッキィ、ラナータム、ホジソニー、ケサンゲ、ヴルガートム、等

 二日目の5月2日はチェレラ峠のシャクナゲ見学である。町を出て少し行くと営林署があり、イシ氏は視察団の許可証を提示するため入って行った。峠道を登るに従ってマイクロバスの車窓から、アウボレアム、バルバータム、トリフローラム、カンピロカルプム、ケサンゲ等が観察され、時々停車してカメラに納める。

 チェレラ峠はインド北部との国境に程近い峠で標高3988mであった。昼食後、稜線の山道を往復2時間程度のトレッキングをしてシャクナゲ観察を行った。稜線ではまだ蕾が多かったが、ファルコネリー等は満開で良い写真が撮れた。峠からの帰途、ヤクの放牧を見学したり、ブータンで日本式農業を普及した西岡京治氏を記念して建てられた西岡メモリーの横を通りホテルに帰った。

第三日目 5月3日(水)

    観察地:ドチュラ峠3150mから旧道の下りを2時間程度トレッキング

 観察できたツツジ・シャクナゲ:ケイシィ、ファルコネリー、グランデ、アウボレアム、バルバータム、ケサンゲ、グリフシアナム、リンドレー、ケンドリッキ等

 ドチュラ峠の旧道を徒歩で下り、シャクナゲ観察した。ケイシィ、大葉シャクナゲのグランデ、アウボレアム等の自生を見学した。ウォンディフォダンのホテル・ドラゴンズ・ネスト・リゾート(DRAGON’S NEST RESORT) は標高1180mで少々暑く感じた。夕食時イシ氏のこれまで見学したシャクナゲの復習会があった。スーパーの白いビニールの袋から小枝を取り出し「これは何ですか」と当てられるのでコワイ。

第四日目 5月4日(木)

    観察地:ウォンディフォダン−ガンテ・ゴンパの道沿いのシャクナゲ見学

 観察できたツツジ・シャクナゲ:マッデニー、グリフシアナム、リンドレィ、ファルコネリー、アウボレアム、デラバイ、サンゲ、トムソニー、ケイシィ、トリフロールム、等

 午前中、途中停車してデンドロビゥムノビル等の着生ランを見学しながら秘境ガンテ・ゴンパへマイクロバスを進めた。道沿いのファルコネリーの大木の下で昼食をとった後、トンサヘの幹線道路に別れを告げガンテ・ゴンパへ向かう。小さな峠を越えると車道沿いにアウボレアム、トムソニーの大群落があった。付近を散策しながら観察すると、ここでもアウボレアムの花色変化は真紅からピンクまで幅が広い。アウボレアムの林の中で集合写真を撮った。

 ガンテ・ゴンパは桃源郷のようなところであった。標高3000mに広大な笹湿原が広がり、その湿原が見渡せる小高いところに宿泊ホテル・デワチェン(Hotel DEWACHEN)があった。ドゥック・エアーの機内誌にも紹介されているリゾートホテルである。この笹湿原は、ヒマラヤ越えの鶴が羽を休めるところで、笹の新芽を餌としているとのことであった。 ホテルの近くを散策すると、ここにもトムソニーの大群落があった。

第五日目 5月5日(金)

    観察地:ガンテ・ゴンパ近郊及びペレラ峠付近をバスで移動しながら終日シャクナゲ観察

 観察できたツツジ・シャクナゲ:シリアータム、ケサンゲ、ホジソニー、カンヒルロカルプム、バルバータム、ケイシィ、トムソニー、アウボレアム、デラバイ、カメリーフロルム等

 ガンテ・ゴンパのホテルを出発してすぐ、白っぽい花のシリアータム、赤黄色の筒状花ケイシー等を見学した。ペレラ峠付近では、大葉ピンク花のケサンゲ、ホジソニー等の大群落を見学した。ケサンゲとホジソニーは類縁種で見分けがつきにくいが、葉裏毛の有無と新芽の形状で見分ける。

第六日目 5月6日(土)

   観察地:ガンテ・ゴンパ−ウォンディフォダン−ティンプー−パロ間の移動日、時折バスを停めてシャクナゲ等観察

  観察できたツツジ・シャクナゲ:エッジワーシィ等

  ガンテ・ゴンパのホテルを早朝出発してパロへ向かう。峠道から雪山チョモラリが遠望できた。チョモラリは神聖な山
 で、特別な理由がない限り登頂許可が下りない。外国からの登山申請が許可されず山積みされているとのことであっ
 た。道すがら、時折バスを停めてエッジワーシィ等を観察した。

  途中、首都ティンプーに近づいたところで、青木女史が「皆さん帽子を脱いでください」と叫んだ。何事かと外を見ると
 、前方から車列が近づいてきた。なんと王様の車列であった。首都ティンプーに立ち寄り、野菜市場等でショッピング
 を楽しみ、昼食後、王宮を外から見学してパロに向かった。

  ブータン入りして初日と二日目に宿泊したホテルで最終日の夜を楽しんだ。イシ氏得意の反省会である。パーワーポ
 イントでこれまで見学してきた全てのツツジ・シャクナゲを投影して、各々の特徴を復習した。「これは何ですか」には、
 団員皆戦々恐々とした。

 写真1 チェレラ峠にて ダルチンを背景にして

 写真2 ドチュラ峠の旧道を下る

 写真3 シャクナゲ視察の復習
    ドラゴンズ・ネスト・リゾートにて

 写真4 ファルコネリーの大木の前で
    ガンテ・ゴンパへの道中で

 写真5 アウボレアムとトムソニーに囲まれて
     ガンテ・ゴンパにて
   (写真掲載はもうしばらくお待ち下さい。)